くゎんおん
江戸の古地図を見ていたら、浅草寺のところに「くゎんおん」とありました。
浅草寺は、隅田川で発見されたといわれる観音像を河畔に祀って建てられた寺院で、
浅草観音として親しまれています。
とすると、「くゎんおん」は現代の表記にすれば「かんのん」です。
江戸時代では、「かんのん」の表記が「くゎんおん」であったことが知られます。
「くゎ、ぐゎ」は合拗音(ごうようおん)と言い、
本来日本語になかった漢字音を表しています。
高島俊男氏の著書に、こうありました。
「クヮ、グヮという音は、もともと日本にあったのではない。千数百年の昔、漢字とともに漢語の音がはいってきたのである。
当初はクヮ、グヮのほかに、同じなかまのクヰ、グヰgwi、クェkwe、グェgweという音もあったのだが、これらはだいたい鎌倉時代ごろまでにはほろんだ。たとえば「変化」はヘングェと言っていたが、ヘンゲに変化したわけである。
ところがどういうわけかこのクヮ、グヮのみが、実に二十世紀のなかばまで生きのびたのであった。よくこんな言いにくい音が千年以上も持ったものだ。」
(高島俊男『お言葉ですが…③ 明治タレント教授』文春文庫 2002)
※写真は、宇都宮市 大谷石の平和観音
デザイン部 中里
2021年11月26日|校正ノート