ジョバンニの仕事

今日9月21日は「宮沢賢治忌」です。
昭和8年のこの日、賢治は、急性肺炎により37歳で亡くなりました。
没後85年になります。

賢治の代表作の一つに『銀河鉄道の夜』がありますが、
私はいつもこんな場面を思い出します。

(ジョバンニは学校が終わると大きな活版処に入って行きました。)
ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子に座った人の所へ行っておじぎをしました。
その人はしばらく棚をさがしてから、
「これだけ拾って行けるかね。」と云いながら、一枚の紙切れを渡しました。
ジョバンニはその人の卓子の足もとから一つの小さな平たい函をとりだして向うの電燈の
たくさんついた、たてかけてある壁の隅の所へしゃがみ込むと小さなピンセットでまるで
粟粒ぐらいの活字を次から次と拾いはじめました。
青い胸あてをした人がジョバンニのうしろを通りながら、
「よう、虫めがね君、お早よう。」と云いますと、近くの四、五人の人たちが声もたてず
こっちも向かずに冷くわらいました。
ジョバンニは何べんも眼を拭いながら活字をだんだんひろいました。
(角川文庫改訂新版 155頁)

ジョバンニは「文選(ぶんせん)」の仕事をしているんですね。

活版印刷で、原稿に合わせて必要な活字を拾うことを文選と言います。
一字一字、間違いのないように拾っていくわけですが、
ジョバンニが小さな活字に眼をこらしている背中を脳裏に思い浮かべると、
一文字一文字、眼で追いかけて校正している自分に重なり、
ジョバンニに感情移入できるような気がするのです。

デザイン部 中里

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